3.ADAS開発の走行データの特徴
これまでに様々なADAS技術が開発されておりADASの進化に伴い運転支援を行うために取り扱うデータも日々進化しています。
従来は、車の車両運転情報(車載CANで取得できるような車速、4輪の回転数、アクセル開度、ブレーキ情報など)や超音波センサーやミリ波センサーなど追加センサーを活用するものの比較的データ量の小さい情報を使って運転支援を行っていました。
現在では、サラウンドビューカメラによる駐車支援やフロントカメラを使ったレーン逸脱防止機能、白線検出機能、リアカメラを使った衝突防止機能、また、ステレオカメラを使った前方車両の検出や衝突回避など、画像の情報も扱った運転支援が行われています。カメラ画像が取り扱えるようになった背景には、コンピューター処理能力の向上や車載用のカメラの認識能力の向上や低コスト化なども影響を与えています。新しい取り組みとして、機械学習やディープラーニングを活用した、認識技術も開発されており、今後もカメラを使った運転支援技術の開発は進められていくと考えられます。
この先のADAS技術で求められるのは、様々なセンサーの結果をフュージョンし、より複雑な環境における危険回避走行やカメラを活用した追加の機能としてドライバーをモニタリングや前方の遠くを見るための望遠用のステレオカメラの搭載した高速域における運転支援、 VtoX機器 (車と社会が情報で繋がるセンサーや車車間通信や車路間通信などに使われるデバイスなど)が搭載され、車両の情報だけでなく、ドライバーやその周辺情報など様々なデータを統合して判断する運転支援が求められます。
今後のADAS技術の進化のトレンドとして、取り扱うデータ種類やデータ量が増加する傾向になっていくことが考えられます。
4.開発における走行データ解析の課題
次期のADAS機能開発においては、前述したようなカメラ画像などの膨大なデータの取り扱いと複雑なシーンに対応する新しいADAS機能が求められています。そのため、様々な種類のデータ計測や必要なデータを効率的に見つけだし活用できる環境や業務の効率化が課題となってきます。
ADAS開発のトレンド(ロードマップ)は 、Euro NCAP(European New Car Assessment Program)のウェブサイトにも掲載されていますが、ドライバーモニタリング、VtoX、歩行者やバイク・自転車の保護などが目標とされています。このEuro NCAPは、ヨーロッパで実施されている自動車アセスメントで、アメリカのNCAPのヨーロッパ版という位置づけになります。昨今ではこういった評価機関の安全性の結果が自動車の売上に影響を与えるため、安全性も自動車の魅力を決める1つのファクターとなっています。
5.ADAS 開発用の走行データの取得方法
走行データの取得方法は大きく2つに分けられます。
1つめが既に計測しているデータを収集し解析用に提供しているデータベースからデータを取得する方法、もう一つはユーザーが新しく走行してデータを計測し必要なデータを取得するパターンがあります。
5-1.走行データのデータベース
走行データベースとして有名なのが、KITTIのデータベースです。このデータはIMU(加速度センサ)、3D-LiDAR、白黒カメラ、カラーカメラを搭載したデータベースもあり、生データだけでなく、画像にラベル付けもされているためセンサーフュージョンや画像を使った認識アルゴリズムに活用可能です。しかし、走行シーンは海外が多く、日本国内で認識技術を開発するには別途データが必要とされていました。
上記の状況を解決するために、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)自動走行システム研究開発計画にあげられたセンシング能力の向上技術開発と実証実験テーマとして、一般財団法人日本自動車研究所(JARI)が中心となって走行映像データベースの構築を行っています。
ここで計測されているデータはベース車両をトヨタのアルファードとしカメラを周辺監視用に4台前方の遠方監視用に1台搭載しています。
また、レーザーレーダーセンサーとして 周辺監視用に4台また前方の監視用に1台搭載されています。GPSも搭載され位置データも参照できるデータベースとなっております。
計測したデータは、タグ付けされ映像データベースとして各OEMはTier1へ提供し開発効率化を目的とされています。
上記のデータベースではLiDARやカメラデータ GPS の情報など複数のセンサー情報を使うことが出来、センサーフュージョンのアルゴリズム開発などに活用される予定です。
また、大学を主体とした取り組みとして東京農工大にスマートモビリティ研究拠点(SMRC)があり、そこにドライブレコーダデータセンタがあります。
日本の交通環境で発生しているヒヤリハット事象を収集したヒヤリハットデータベースを2005年から開発しています。
現在は、タクシーに装着したドライブレコーダから採取された映像データと物理データに、分析者がタグ情報を付加して登録したヒヤリハットデータの量は,現在までに約14万件のデータが集められております。
本データベースはドライブレコーダーに記録された事故映像や事故になりそうになった映像などなかなか普段では手に入れにくい画像が整備されている所が魅力となっています。
上記のデータは、
・予防安全システム開発や自動運転システム開発の設計と評価
・事故分析
・道路環境・インフラの評価と改善
・運転診断や教育システムの展開
への活用が期待されています。
5-2. 新規で走行しデータを計測
実際の走行データを計測するにあたり、各社メーカーや研究機関の中で独自に試験を実施するという方法と外部へ走行計測業務を委託(外注)し、走行データを取得を支援するサービスを活用する方法があります。
各メーカーでの走行テストについては、開発しているセンサーやアルゴリズムを搭載した車両にリファレンス用のセンサーを搭載して走行するという形になります。
走行データの取得を支援するサービスとして 、 ZMP 社が提供するデータ計測サービスRoboTest(ロボテスト)やアイサンテクノロジーが提供する走行テストサービスや、ネクスティエレクトロニクスが提供する走行データ収集・分析サービス、NAVITIME 車が提供するアプリケーションの検証サービスなどが存在し必要に応じて走行データを柔軟に計測できるサービスがあります。
なお、走行データを取得するための走行テストについては、ADAS(先進運転支援システム)における走行テストについてのページにて説明を行っておりますのでこちらも参照いただければと思います。
6.ADAS 開発用のデータ解析について
ADAS開発用の走行データは、公道走行でのテストドライバーを対象とした走行データや市場の使われ方調査(モニタリング)するための一般ユーザーのドライバーを採用して計測することがありますが、 走行データというとどちらも長時間の走行データを計測する形が多くなります。
沢山の走行データはあるものの、通常ドライバーは8~9割ぐらいは運転に集中しておりステアリングを両手で握り、前方を見ている中心になります。ADAS開発においては危険回避し運転を支援することが必要なため、開発においてはその大多数のデータは対象とならず、残りの2割以下のデータから必要なシーンを抽出することが求められます。
効率的にデータ分析を進めるためには、本当に必要なシーンの抽出が重要になります。例えば、ドライバが眠気を感じ目を閉じかけているシーンや、飲み物を飲むためにハンドルから手を放しているなど、必要なシーン(危険が存在するシーン)を抽出をするためにいくつかの指標があります。
6-1.車両走行中の周辺状況での層別
1つ目のシーンの層別方法としては、車両走行中の周辺状況でのふるい分けが可能です。車両走行中の周辺の環境で層別方法として、以下の2つが考えられます。
6-1-1.走行エリアでの層別
1つめの方法は、交差点付近やトンネル内などといった車両の走行している場所(エリア)による層別です。これにはGPSによる位置情報やマップ情報、場合によっては、カメラからの情報によりディープラーニングを使った走行エリアの推定などが活用可能です。
6-1-2.車両周辺の対象物での層別
もう1つが、歩行者、対向車、自転車、バイクなど車両の周辺に存在しているもので分けることが出来ると考えられます。さらなる解析のためには、種別の判定と車両と認識物の位置関係がわかるとさらなるアルゴリズムの開発に活用できます。
特に、2025 Euro NCAPのRoad Map(ロードマップ)では、高速道路や都市部での自動運転、歩行者や自転車の保護が挙げられており、車両走行中の周辺環境に応じたデータ解析が重要になってくると考えられます。
6-2. ドライバーの状態
2つ目の層別方法としては、ドライバーの状態による層別方法です。
自動車の挙動や安全性に大きな影響を与えているものとしてドライバーの存在があります。
そのため、シーンを抽出する指標としてドライバーの集中度合いや、ドライバーの動き、またドライバーの感情などの指標によりADASが必要なシーンなのかどうかを分けることができます。
ドライバーの分析については、様々なアルゴリズムが開発されており、例えばドライバーの眠気状態をセンシングする指標として、循環系では心電図(ECG) による心拍や血圧・脈圧、視覚系では眼球運動や瞬きなどにより判定する手法があります。
6-3.車両の運転状況
3つ目の層別の方法として、車両の舵角情報やウィンカー、加減速情報、アクセルやブレーキのを用いて走行シーンを抽出する方法もあります。
様々なデータの層別手法がありますが、これらを組み合わせて如何に所望のシーンのデータを抽出するかが走行データを取り扱う上では重要になります。
現在ZMPでは、走行データを抽出し、データ解析・分析を支援する解析プラットフォームの構築を行っております。